「ゲームばかり」で本当に大丈夫?言語聴覚士と理学療法士が教える「ゲームの意外な効能」

意外と知られていない“遊び”の効能

「うちの子、ゲームばかりして困っています」
これは、保護者の方からよく聞くお悩みのひとつです。

ゲームは中毒性があり、依存や視力低下、運動不足といった“悪いもの”として語られがちです。しかし、私たちが現場で子どもたちと関わる中で感じているのは、ゲームには子どもの発達を支える側面が数多くあるということです。

本記事では、こども発達LABO.言語聴覚士の西村千織、理学療法士の西村猛が、それぞれの専門的な立場から、「ゲームを通して育まれる力」についてお伝えします。

言語聴覚士・西村千織の視点

ことばとコミュニケーションの発達を支えるゲームの力

ゲームを通じて育つ力のひとつが、「言語的理解力」と「コミュニケーション能力」です。

まず、ルールを理解してプレイすること自体が、言語的な処理能力を必要とします。「こういう条件のときにこうする」というルールを理解し、記憶し、実行する力は、言語理解力の土台になります。

また、誰かと一緒にゲームをする場面では、「順番を守る」「相手の話を聞く」「自分の考えを言葉で説明する」といった、やりとりの力も育まれます。

最近では、オンラインで友達と協力して進めるゲームや、ロールプレイ形式で会話やストーリーを楽しむタイプのゲームも増えています。こうしたゲームは、語彙の習得や物語理解力、想像力の向上にもつながります。

ターン制のゲームやすごろくのような形式のものでは、「順番を待つ」「ルールに従う」といった社会性の基礎になる力が自然と身につきます。

言葉を教えるのではなく、「ことばを使う必然性のある場面をつくること」が、言語聴覚士としての大切な視点です。私自身、子どもたちの興味の中に“ことばの伸びしろ”を見つける場面として、ゲームはとても活用しやすいと感じています。

理学療法士・西村猛の視点

感覚・運動・身体づくりの視点で捉えるゲーム

ゲーム=座りっぱなし、という印象を持たれる方は多いかもしれません。
ですが、身体の専門家として見ると、実はゲームには“動き”に関する多くの要素が潜んでいます。

たとえば、コントローラーを操作することは、指先の器用さ(巧緻性)や、目で見て動きを合わせる力(視覚―運動統合)を鍛える機会になります。細かいタイミングでボタンを押したり、視覚的な情報を読み取りながら動作を合わせたりすることは、日常生活動作の基礎ともいえる力です。

最近では、身体を使って遊ぶゲーム(Switchのリズムゲームやボクシングなど)も増えてきました。これらはバランス感覚や体幹のコントロール、俊敏性の向上といった運動機能の向上にもつながります。

また、姿勢保持の面でも注目すべき点があります。長時間ゲームをする際に背中が丸まっていたり、横になったままだったりする場合は注意が必要ですが、「集中して座っていられる」こと自体が、ひとつの身体機能とも言えます。

子どもの姿勢と動きに長年関わってきた私としては、ゲームを上手に取り入れることで、運動面の可能性を広げることも十分に可能だと考えています。

心の成長という側面も見逃せない

ゲームには、子どもが感情のやりとりを体験できる場面が多く存在します。

勝ったときの喜び、負けたときのくやしさ、何度も失敗して、ようやく乗り越えたときの達成感。これらはすべて、感情を認識し、受け止め、調整していく「感情コントロール」の土台になります。

また、難しいステージを自分の力でクリアした経験は、「自分にもできるんだ」という自己効力感につながります。これは、学習や日常生活のチャレンジにも良い影響を及ぼします。

ゲームの世界の中で「成功体験」を積み重ねることは、「自分を客観視する」ことや、「自信を持つ」ことにおいてプラス効果があると言えます。実際、ゲームを達成したときの子どもの顔は、自信に満ちあふれていることと思います。

ゲームとのつきあい方について、専門職としてのアドバイス

ゲームを育ちの味方にするためには、「何を、どのくらい、どんな関わりで行うか」がポイントです。

時間を一律に制限するのではなく、「このステージが終わったらおしまい」「対戦3回まで」といった“活動の区切り”を使うことで、納得しやすくなります。

また、親が一緒にプレイしたり、実況を見たりすることで、子どもの世界への理解が深まります。「ゲームの話をすると饒舌になる」お子さんも多く、関係性を築くきっかけとしても有効です。

「ゲームばかりで困る」という言葉の裏側には、「他に楽しめるものがない」「安心して過ごせる居場所がない」というメッセージが隠れていることもあります。単純にゲームを取り上げるのではなく、その背景を一緒に見つめていくことが大切です。

おわりに

ゲームは、決して万能な発達ツールではありません。ですが、興味関心を引き出し、ことばや身体、心の育ちを支える素材として活用することは十分に可能です。

保護者の方にとっても、ゲームは悩みの種であると同時に、子どもとの接点や可能性の入り口でもあります。

“子どもの発達”という広い視点で見たとき、「ゲームをどう見るか」「どう活かすか」は、大人側の“まなざし”にかかっているのかもしれません。

ぜひ、お子さんの可能性に目を向けてみてあげてください。